夏、終幕。

高校野球について、試合後良く交わされる言葉がある。「実力的には差がなかったが、ほんのひとつのエラーで流れが変わった。」確かにこういう試合は良くあるし、トーナメントがクライマックスを迎えるに従って論理的にはその可能性は高まる。従って、決勝戦は大会最後の試合であると同時に、実力の拮抗度合いでも最大の試合となる可能性が高い。確率的には。

第92回全国高等学校野球選手権大会決勝戦、興南高校対東海大学付属相模高校の試合は、その「論理」が通用しなかった。2年前、大阪桐蔭が常葉菊川を完膚なきまでに叩き潰したその試合ほどのインパクトはなかったものの、東海大相模のスタッフにはどう考えてもすぐには越えられない「壁」を感じた試合だと思う。

試合は一見緊迫した投手戦の様相を呈して始まる。序盤3回までは両チームランナーは出すもののあと一本が出ずゼロ行進。「あと一本が出ず」は投手が踏ん張っている場合と攻撃側に執着心が足りない場合とがあるが、どちらかと言うと後者のパターンだった。

東海大相模はチャンスになるほどタイムリーが出る雰囲気が消え去り、興南の打者は気持ちよく振り切ってはいたが序盤と言うこともあり狙い球を絞れていないせいか、打球が打者の正面をつく。当然ながら大会屈指の好投手同士である一二三、島袋と相対しているわけで、簡単に点が取れるわけでもない。しかし、試合序盤から目立っていたのは、尋常じゃないボリュームとテンションで行われる一塁側スタンドからの応援と同じように、とにかくすべてのストライクをフルスイングする興南の各打者だった。

中盤戦、疲れからかコントロールが定まらない一二三はカウントを悪くすることを嫌いコントロール重視・ストライク先行のピッチングにシフト。浅いカウントから打ち頃の玉がストライクゾーンに集まったところを興南の各打者が見逃さずに初球、2級目からフルスイング。フライになる打球はほとんどなく、ほぼすべてがライナー性の打球で時に外野の前に、時に外野の頭を超えていく。40年ぶりに夏の決勝戦の舞台に立った東海大相模ナインとスタッフはなされるがままヒットを許し続ける。為す術が、ない。

次々と得点が重ねられる興南のスコアボードに対して、東海大相模打線は沈黙を続ける。付け入る隙がなかったわけではない。島袋相手に重ねたヒットは9本。チャンスも作った。しかし、上述の通りタイムリーが出る雰囲気がまったくない。ランナーがいないときにはプレッシャーもなくのびのびと振れる各打者も、ピンチに強い島袋、そして興南に対して合わせるだけのバッティングに終始し、チャンスになればなるほど力ない打球が野手の正面に転がった。回が進み、追い詰められるほどにその傾向は強まった。そして、気が付いたころには試合は終わっていた。13-1。

センバツ終了後、春の県大で惨敗、かつてないほどの低い評価で夏の大会に臨んだ東海大相模。一度はどん底にまで落ち込んだ一二三が復活を見せ、33年もの間堅く閉ざされ、二度と開くことはないんじゃないかと思われた重い扉をこじ開け、夏の甲子園に導いた門馬監督はじめスタッフ、そして何よりも強い気持ちを持って戦ったナインの奮闘振りは、他チームのOB、ファンであるぼく自身にも感動を与えてくれた。本当に感謝したい。

そして春夏連覇の興南。強かった。こんなに迷いなく振り切るチームは久々に見た。島袋が注目されるも、やはり組織としての強さが際立っていて、これはかなわぬ夢ではあるけれど、できればこのナインとスタッフをもう少し長く見ていたいと思わせる、気持ちのいいチームだった。残るは「ボーナスステージ」の秋の国体。時間があれば見に行きたいな。もちろん、一二三や、その他のヒーローのリベンジにも期待しながら。